朝鮮人虐殺事件についての最も基本的な文献と思われるものを紹介します。大規模な公共図書館で収蔵しているもの、現在も購入できるものが中心です。中国人や日本人虐殺事件をまとめたものも一部紹介しています。
<朝鮮人虐殺とその後についての概説・議論>
・姜徳相『新版 関東大震災・虐殺の記憶』(青丘文化社、2003年)
1975年に出版された『関東大震災』(中公新書)の新版。当時の資料を駆使しながら、日本政府と日本人民衆による虐殺に至る過程と各地域での出来事を時系列に詳述。関東大震災朝鮮人虐殺の全体像がわかります。
・山田昭次『関東大震災時の朝鮮人虐殺―その国家責任と民衆責任』(創史社・八月書館、2003年)
・山田昭次『関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後―虐殺の国家責任と民衆責任』(創史社・八月書館、2011年)
朝鮮人虐殺そのものというより、その後についての研究。朝鮮人虐殺を日本政府がどのように隠蔽したか、朝鮮人同胞による犠牲者調査や抗議、日本各地に残る朝鮮人犠牲者追悼碑についてまとめています。
・加藤直樹『TRICK-トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(ころから、2019年)
朝鮮人虐殺否定論の欺瞞を、詳細な検証に基づいて明らかにしています。以下、出版社からの紹介です。「『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)の著者が、ネット上に蔓延する「虐殺否定」がまっとうな「論」ではなく、タネも仕掛けもある「トリック」であることを白日の下に晒す。」
<中国人虐殺、日本人虐殺事件>
・仁木ふみ子『関東大震災 中国人大虐殺』(岩波ブックレット、1991年)
東京での中国人虐殺(大島町事件)を明らかにした書籍。併せて『震災下の中国人虐殺―中国人労働者と王希天はなぜ殺されたか』(青木書店、1993年)も参照してみてください。
・田原 洋『関東大震災と中国人―王希天事件を追跡する』(岩波現代文庫、2014年)
中国人労働者の救済にあたっていた社会事業家の王希天が軍隊に虐殺された事件を明らかにしています。『関東大震災と王希天事件―もうひとつの虐殺秘史』 (三一書房、1982年)の改訂版。
・今井清一『関東大震災と中国人虐殺事件』(朔北社、2020年)
著者は長年にわたって朝鮮人虐殺事件や中国人虐殺事件を研究してこられました。本書には、これまでの中国人虐殺事件関連の論文と、書き下ろしの論考を収録しています。
・加藤文三『亀戸事件―隠された権力犯罪』(大月書店、1991年)
亀戸警察署内で10人の労働運動家が軍隊により虐殺されました。この「亀戸事件」の全貌を明らかにした本です。
・辻野弥生『福田村事件 関東大震災知られざる悲劇―ふるさと文庫 206』(崙書房、2013年)
日本人行商人が集団で虐殺された千葉県での事件をまとめたものです。
<日韓における虐殺事件の真相究明と追悼のため開催された集会の記録>
関東大震災70年、80年、85年、90年に集会が開催されました。以下の書籍はその記録集です。
・関東大震災70周年記念行事実行委員会編『この歴史永遠に忘れず―関東大震災70周年記念集会の記録』(日本経済評論社、1994年)
・関東大震災80周年記念行事実行委員会編『世界史としての関東大震災―アジア・国家・民衆』(日本経済評論社、2004年)
・関東大震災85周年シンポジウム実行委員会編『震災・戒厳令・虐殺』(三一書房、2008年)
・関東大震災90周年記念行事実行委員会編『関東大震災 記憶の継承―歴史・地域・運動から現在を問う』(日本経済評論社、2014年)
・姜徳相、山田昭次、張世胤、徐鍾珍ほか『関東大震災と朝鮮人虐殺』(論創社、2016年)
(韓国でのシンポジウムの記録です)
<虐殺事件についての資料集>
・姜徳相・琴秉洞編『現代史資料6 関東大震災と朝鮮人』(みすず書房、1963年)
今なお、この問題を知るための基本的な資料集として、高い価値を持つ本です。「1923年の震災時の流言と虐殺、強制収容と調査、反響と論評、政府の処置と対策等の資料に「警備軍の所見」を併せ収録。」(みすず書房のWEBサイトより)
・朝鮮大学校編『関東大震災における朝鮮人虐殺の真相と実態 朝鮮に関する研究資料 ; 第9集』(1963年)
上記と同様に、基本的な資料を収録。上記の本と重なる資料もありますが、独自に収録された資料もあります。とくに苛酷な体験を生きのびた被害者への聞き取りは貴重な成果です。
・松尾章一監修『関東大震災政府陸海軍関係史料1~3』(日本経済評論社、1997年)
1巻:平形千惠子、大竹米子編集『政府・戒厳令関係史料』/2巻:田崎公司、坂本昇編集『陸軍関係資料』/3巻:田中正敬、逢坂英明編集『海軍関係史料』
国立公文書館、防衛庁防衛研究所図書館(刊行当時の名称)、東京都公文書館、法政大学図書館所蔵の文書をまとめた資料集。軍隊による朝鮮人虐殺があったことを裏づける文書などをはじめとする貴重な資料を収録しています。
・西崎雅夫編『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』(ちくま文庫、2018年)
「子どもの作文」、「文化人らの証言」、「朝鮮人の証言」、「市井の人々の証言」、「公的史料に残された記録」の各章ごとに多数の証言を収録。著者は、東京23区を中心に証言を収録した『関東大震災 朝鮮人虐殺の記録―東京地区別1100の証言』(現代書館、2016年)もまとめています。
・今井 清一監修、仁木 ふみ子編『史料集 関東大震災下の中国人虐殺事件』(明石書店、2008年)
中国人虐殺事件後に日本で調査した中国の調査団が作成した資料、日本の外務省や日中交渉などの資料により構成。中国人犠牲者名簿も収録されています。
<関東地方各地域での朝鮮人虐殺について知る>
・関東大震災五十周年朝鮮人犠牲者調査・追悼事業実行委員会(日朝協会埼玉県連合会内)編
『かくされていた歴史―関東大震災と埼玉の朝鮮人虐殺事件』(1974年、1987年に増補保存版を発行)
埼玉県では中仙道沿いなどを初めとして、多くの虐殺が起こりました。 本書は各地域の出来事について調査した結果に基づいて書かれています。多くの証言を収録しており、資料集としても貴重です。
・千葉県における関東大震災と朝鮮人犠牲者追悼・調査実行委員会編
『いわれなく殺された人びと―関東大震災と朝鮮人』(青木書店、1983年)
千葉県の西北地域にあった陸軍・海軍施設とその周辺で起こった虐殺について、精密な調査に基づいてまとめています。収録された証言と資料から、軍隊が作った朝鮮人・中国人収容所内外での虐殺を明らかにしています。田中 正敬・専修大学関東大震災史研究会編『地域に学ぶ関東大震災―千葉県における朝鮮人虐殺 その解明・追悼はいかになされたか』(日本経済評論社、2008年)も併せて参照してみてください。
・関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し追悼する会編
『風よ鳳仙花の歌をはこべ―関東大震災・朝鮮人虐殺から70年』(教育史料出版会、1992年)
1923年当時建設が進められていた荒川放水路における日本の軍隊や民衆による虐殺を、精力的な証言収集等によって描いています。地域での調査にとどまらず韓国でも被害者調査を行なった、大変意義のある本です。
・今井清一『横浜の関東大震災』(有隣堂、2007年)
横浜における関東大震災の被害についてまとめています。その一部で虐殺事件についても記述しています。
・加藤直樹『九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響』(ころから、2014年)
関東大震災朝鮮人虐殺否定論やヘイトスピーチへの批判として大きな反響を呼んだ本です。1923年当時の各地の虐殺の現場と、その90年後の人々の証言や思い、そして資料から虐殺の様相を再構成します。
<関東大震災について知る>
・中央防災会議 災害教訓の継承に関する専門調査会『1923 関東大震災 報告書』
「被害の全体像/地震の発生機構/地変と津波/揺れと被害/火災被害の実態と特徴」という内容で、地震発生のメカニズムと地震により起こった被害をまとめています。
「消防と医療/国の対応/地域の対応/混乱による被害の拡大」という内容で、地震に対する対応をまとめています。虐殺については、主に「混乱による被害の拡大」に記載があります。
「帝都復興と県下の復興/県下等の住まい・生活・産業の復興/被災者の生活再建過程と復興都市計画の関連/産業と経済の復興/生活と文化の復興」という内容で、復興過程を中心に扱っています。
・記憶を刻む 1923年関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺関連の資料と証言
「民族差別への抗議行動・知らせ隊 + チーム1923」作成のWEBページ。虐殺に関する流言記事や官民の証言を集めています。
<朝鮮人虐殺否定論・正当化論を批判する>
・「朝鮮人虐殺はなかった」はなぜデタラメか-関東大震災時の朝鮮人虐殺を否定するネット上の流言を検証する
「民族差別への抗議行動・知らせ隊+チーム1923」によるWEBページ。朝鮮人虐殺はなかったという主張の誤りを検証しています。
同上の団体によるWEBページ。上記の本の主張を、歴史資料に基づいて検証しています。
<関東大震災朝鮮人虐殺についての調査>
2003年8月25日、日本弁護士連合会は、関東大震災時の朝鮮人虐殺で心に深い傷を負った被害者の人権救済申立について調査してまとめた勧告書を、小泉純一郎総理大臣に提出しました。この勧告書と調査報告書が、調査にかかわった梓澤和幸弁護士のWEBページに掲載されています。